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京都地方裁判所 昭和48年(ワ)423号 判決 1974年12月20日

原告

東京海上火災保険株式会社

代表者

塙善多

訴訟代理人

永田雅也

被告

坂井菊雄

訴訟代理人

林成凱

主文

被告は原告に対し金四二八万円と、これに対する昭和四七年七月四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができ、被告は、金三〇〇万円の担保を供して仮執行を免れることができる。

事実

第一  請求の趣旨

主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言。

第二  請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決と仮執行免脱宣言。

第三  請求の原因事実

一、事故の発生

訴外柴田博は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時  昭和四一年七月三日午前一一時一〇分ころ

(二)  発生地  京都市上京区烏丸通下長者町の信号のないT字型交差点付近

(三)  加害車(1)(以下山田車という)

普通乗用自動車(京四の三二六一号)

運転者  訴外山田恭平

加害車(2)(以下田中車という)

自動二輪車(一京は一四七七号)

運転者  訴外田中久朝

(四)  被害車

第二種原動機付自転車(右一〇七三七号)

運転者  柴田博

<以下事実欄省略>

理由

一原告会社主張の本件請求の原因事実中第一項(一)ないし(四)の各事実は、当事者間に争いがない。

二本件事故の態様について

(一)  <証拠>によると、次のことが認められこの認定に反する証拠はない。

(1)  本件事故現場は、南北に通じる幅員14.5メートルの烏丸通りに東西に走る幅員10.5メートルの下長者町通りがT字型に交差する信号機の設置されていない交差点付近である。

(2)  田中久朝は、田中車を運転して下長者町通りを東進して本件交差点付近にさしかかり、烏丸通りを右折南進するため一時停止していたところ、シャツの下に入つていた呉服の布見本の束がずり落ちてきたため、左手でクラッチを握り、右手でその呉服見本の布束をシャツの下に入れようとしたが、その時クラッチの操作を誤つたため、田中車は、急に発進して烏丸通りに飛び出してしまつた。

(3)  丁度その時、市バスは烏丸通りを北進して本件交差点付近に差しかかつていたが、田中車が急に進路前方に飛び出してきたために、衝突を避けようとしてハンドルを右に切つて右に寄つた。

(二)  山田恭平は、山田車を運転して、制限速度を約一〇キロメートル上回る時速約五〇キロメートルの速度で、市バスの右後方に追従して烏丸通りを北上していがた、本件交差点付近で市バスが急に右側に寄つてきたので、接触を避けようとして右に急ハンドルを切つて対行車線に進入した。その時被害車が対向してきたので、急ブレーキをかけたが及ばず両車は正面衝突した。

(三)  みぎ認定の事実によると、本件事故は、山田久朝が狭路である下長者町通りから広路である烏丸通りに進入し右折する際、烏丸通りの直進車両の進行を妨害してはならないのに、運転操作を誤つて、急に田中車を烏丸通りに進入させてしまつた過失に基因するものであることが明らかである。

他方、山田恭平にも、制限速度を約一〇キロメートル上回る速度で進行していたために、適宣な避譲処置をとることができないまま山田車を対向車線に進入させてしまつた過失があり、この過失もまた本件事故発生の一因となつた。

そして以上認定の両者の過失を比較検討したとき、その過失割合は、田中久朝が八、山田恭平が二と認めるのが相当である。

三責任

被告は、田中車の保有者であることを認めて争わないから、被告は、自賠法三条によつて、柴田博の損害を賠償しなければならない。従つて、被告が、不法行為者である限り、同条但書の免責の抗弁は採用の余地がない。

四柴田博の損害について

<証拠>によると、柴田博は、本件事故によつて骨盤骨折、右下腿骨折、右股関節脱臼、左大腿部挫傷などの損害を受け、事故当日である昭和四一年七月三日から昭和四二年七月二日まで堀川病院に入院し、その後昭和四三年四月まで通院して加療をうけ、同年一〇月一三日ごろ、自賠法施行令別表等級七級に相当する右足一一センチメートル短縮、右股関節の機能障害の後遺症を残して症状が固定したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうして、<証拠>によると、柴田博は、昭和四七年六月一二日、山田恭平と山田車の保有者である訴外株式会社高野染工場との間で、金六六五万五、七七五円の支払いを受ける旨の裁判上の和解をしたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、柴田博の損害は、同額とするほかはない。

五高野染工場の出捐と原告会社の求償権の取得

(一)  前記認定のとおり、本件事故の責任は、田中久朝と山田恭平の運転上の過失によるから、田中車と山田車の各保有者である被告と高野染工が共同不法行為者として、柴田博に対し、連帯(不真正)して賠償すべく、被告と高野染工との内部では、その過失割合によつて求償すべき法律関係にあるとしなければならない。

(二)  ところで、高野染工は、昭和四七年七月三日、和解条項どおり、金六六五万五、七七五円の支払いを終えたことは、<証拠>によつて認められるから、高野染工は、被告に対し、これによつて、その八〇パーセントの金額の求償権を取得したことになる。

(三)  そこで、被告の抗弁について判断する。

共同不法行為者の一人が被害者に損害の賠償をして他の共同不法行為者に求償権を行使する場合、他の共同不法行為者は、被害者に対する不法行為上の債務が時効によつて消滅したことを主張して、自己の負担部分の求償を拒めないし、このような場合、民法四四三条一項の類推適用もないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。

(1)  被害者は、共同不法行為者の全員に対しその損害賠償の請求をする必要がなく、共同不法行為者の一部のものを選択して請求すれば足りる。もし、そうではなく常に全員に対し請求をしなければならないとすると、所在不明の場合その措置に窮するし、資力の乏しいものに対しても請求を余儀なくされることになり不合理であるばかりか、被害者保護にならない。このことからいえることは、共同不法行為者の責任は、被害者に対する関係では別個独立の全部責任であるということである。講学上この責任を不真正連帯責任という。

この共同不法行為者の責任の特質に着目したとき、民法の連帯債務に関する四三四条ないし四三九条が規定する事由は、すべて相対的効力しか認められないし、民法四四三条を類推適する余地はない。なぜならば、共同不法行為者間の不真正連帯債務には、民法の連帯債務のような相互保証的性格がないからである。

(2)  次に求償権は、被害者に対する損害賠償義務を履行したとき発生するもので、このときを起算点に債権の一〇年の消滅時効に服する。従つて、この求償債権は、不法行為債権とは全く別個の債権である。

(3)  ところで、共同不法行為者の一人が他の者に求償権を行使しようとするとき、他の者が、被害者に対する不法行為上の債務の時効消滅を適法に主張できるとするなら、求償権者は、これに対抗して法律上どんな手段をとることができ、又とらなければならないのか。

民法は、この手段に関しなんらの規定を設けていない。民法四四三条の規定が類推適用されないことは前述した。しかも、求償権を取得するには、被害者に対する賠償義務を履行しなければならないのであるから、仮になんらかの手段があるとしても、それは将来の求償権取得を条件としてはじめて可能になるまことに不確定なものでしかないから、これにより、果してどのよう効果があるとしてよいか疑問である。

(4)  賠償義務を履行してはじめて求償権を取得した者に対し、共同不法行為者の一人が裁判上裁判外で被害者から請求されないことに原因する消滅時効を主張して負担部分の支払いを免れることができるとすると、この結果は衡平を失することが明らかであるばかりか、前述した共同不法行為上の不真正連帯債務の特質(相互保証的性格の欠如)にもとるとしなければならない。

以上の次第で、被告の抗弁は採用しない。

(四)  原告会社の保険者代位

<証拠>によると、請求の原因事実中、第五項の事実が認められ、この認定に反する証拠がない。従つて、原告会社は、高野染工に保険金として支払つた金五三五万五、七七五円のうち、被告の負担部分としてその八〇パーセントに相当する金四二八万円(一万円未満切捨)を、求償できることになる。

六むすび

原告会社は、被告に対し、金四二八万円と、これに対する保険金支払いの日の翌日である昭和四七年七月四日から支払いずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができるから、原告会社の本件請求を全部認容し、民訴法八九条、一九六条に従い主文のとおり判決する。

(古崎慶長 折田泰宏 高橋文仲)

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